「社員の親が亡くなった。会社からの香典はいくら包めばいい?」「勘定科目は福利厚生費?接待交際費?」「領収書がないのに経費にできるの?」——この記事では、①香典の相場・続柄別の目安、②福利厚生費として認められる3つの要件、③役員への慶弔金の注意点、④仕訳例と消費税区分、⑤領収書なしでの証明方法、⑥慶弔規程のサンプル条文まで、経理・人事担当者がすぐ使える形で解説します。
- 従業員向け(福利厚生費)と取引先向け(接待交際費)の違い
- 福利厚生費として認められるための3つの要件
- 役員への慶弔金が役員賞与(損金不算入)になるリスクと回避策
- 続柄・役職別の香典相場と10万円超の給与認定リスク
- 仕訳例6パターン(法人・個人事業主・香典受取時も)
- 消費税区分(香典・弔電は不課税、供花・交通費は課税)
- 経費として認められない支出の具体例(仏壇・墓地代・戒名料など)
- 領収書がない場合の証明方法
- 慶弔規程のサンプル条文(コピーして使える)
- 訃報受領から経費処理完了までのフロー
目次
会社の香典の2種類の性質
会社が出す香典には、性質の異なる2種類があります。これを混同すると経費処理で誤りが出ます。
| 種類 | 対象 | 勘定科目 | 性格 |
|---|---|---|---|
| 従業員・役員向け | 自社の社員・役員とその家族(元社員も含む場合あり) | 福利厚生費 | 給与以外の従業員サポート |
| 取引先向け | 取引先・仕入先・顧客などの社外関係者とその家族 | 接待交際費 | ビジネス関係の維持・促進 |
接待交際費は法人税の損金算入に上限があります(資本金1億円以下の中小企業は800万円まで全額損金算入可。大企業は接待飲食費の50%のみ)。一方、福利厚生費は上限なく全額損金算入できます。本記事では主に従業員向け(福利厚生費)の処理を解説します。
福利厚生費として認められる3つの要件
香典を福利厚生費として損金算入するためには、税務上、以下の3つの要件をすべて満たす必要があります。
| 要件 | 内容 | 具体的な注意点 |
|---|---|---|
| ① 全従業員を対象 | 特定の従業員だけに支給するのではなく、一定の条件(続柄・勤続年数等)に該当する全員に平等に支給されること | 「仲の良い社員にだけ多く包む」は給与認定リスクあり |
| ② 社会通念上相当な金額 | 世間の相場から著しく逸脱した金額でないこと | 10万円超は税務調査でチェックされやすい。金額の根拠を文書化する |
| ③ 慶弔規程の整備 | 金額・対象・手続きを定めた規程(慶弔規程)があること。規程があると税務上の根拠が明確になる | 規程がない場合でも実態が②を満たせば損金算入は可能だが、証明に苦労することがある |
特定の従業員にのみ高額な香典を支給したり、規程なしに判断がバラバラだったりすると、その金額が受取人の「給与」として課税される可能性があります。源泉徴収・社会保険計算にも影響するため、慶弔規程の整備が重要です。
役員への慶弔金の注意点
役員に対して支給する慶弔金は、「役員賞与」とみなされて損金不算入になるリスクがあります。役員賞与は原則として損金に算入できないため(事前確定届出給与を除く)、役員への慶弔金が適正に処理されているかどうかは税務調査でチェックされやすいポイントです。
| 対処法 | 内容 |
|---|---|
| 慶弔規程に役員を明記する | 慶弔規程の対象者に役員を含め、一般従業員と同じ基準を適用する。「特別扱い」でないことを明確にする |
| 金額の根拠を残す | 役員への支給額についても「社会通念上相当」と説明できる金額設定と文書化を行う |
| 税理士への事前確認 | 役員への慶弔金が高額になる場合(特に社葬等)は、事前に税理士に相談する |
香典の相場(続柄・役職別)
従業員本人が亡くなった場合
| 区分 | 一般的な相場 | 補足 |
|---|---|---|
| 業務上の死亡(労災など) | 50,000〜100,000円 | 会社の責任が生じる場合は手厚い対応が一般的 |
| 業務外の死亡(病気・私的事故) | 30,000〜50,000円 | 勤続年数・役職に応じて調整 |
| 役員・管理職クラス | 50,000〜100,000円以上 | 社葬を検討する場合もある。役員は税務上の注意あり |
従業員の家族が亡くなった場合(続柄別)
| 続柄 | 目安金額 | 根拠・考え方 |
|---|---|---|
| 配偶者 | 10,000〜30,000円 | 最も生活に影響が大きい関係として高め設定 |
| 父母・義父母 | 10,000〜30,000円 | 配偶者に準じる |
| 子ども | 10,000〜30,000円 | 年齢を問わず同等の配慮 |
| 祖父母・義祖父母 | 5,000〜10,000円 | やや控えめが一般的 |
| 兄弟姉妹 | 5,000〜10,000円 | 祖父母と同等程度 |
税務上、「社会通念上相当と認められる金額を超える」と判断されると、超過部分が受取人の給与として課税される可能性があります。10万円を超える場合は、金額の根拠(役職・勤続年数・業務上の事故等)を文書で残してください。
| 判断軸 | 考え方 |
|---|---|
| 故人との続柄 | 配偶者・父母・子ども > 祖父母・兄弟姉妹 |
| 従業員の役職 | 役員・管理職は相場の上限側。一般社員は中央値 |
| 勤続年数 | 長期在籍者への配慮として上乗せする企業が多い |
| 業務上・業務外の区別 | 業務上の死亡は特に手厚い対応が求められる |
| 会社の規模・財務状況 | 中小・スタートアップは「心のこもった少額」でも十分。金額より迅速さと声かけが大切 |
仕訳例と消費税区分
法人の仕訳例
摘要:香典 営業部○○様 ご尊父ご逝去
消費税区分:不課税
摘要:香典 ○○株式会社 △△様 ご逝去
消費税区分:不課税
(借方)福利厚生費 11,000 / (貸方)現金 11,000 課税(供花)
※弔電と供花は消費税区分が異なるため、仕訳を分けて記録するのが正確です
摘要:葬儀参列交通費 ○○様葬儀
消費税区分:課税(10%)
(借方)接待交際費 10,000 / (貸方)現金 10,000 (取引先への場合)
※事業主本人の手持ち現金から出した場合は貸方を「事業主借」にする
(借方)福利厚生費 10,000 / (貸方)事業主借 10,000
香典は「社会通念上相当と認められる範囲」であれば、所得税・相続税・贈与税の課税対象外です。
収受した香典を経理上計上する場合は「雑収入(非課税)」とし、実態に応じて判断します。
消費税区分まとめ
| 支出項目 | 消費税区分 | 理由 |
|---|---|---|
| 香典(現金) | 不課税取引 | 対価性のない金銭の移転のため |
| 弔電の費用 | 不課税取引 | 電報サービス自体は課税だが、弔電の香典的性質から慣行上不課税処理が多い(注:税理士に要確認) |
| 供花・花輪の費用 | 課税取引(10%) | 物品・役務の購入のため |
| 参列の交通費・宿泊費 | 課税取引(10%) | 物品・役務の購入のため |
経費として認められない支出
葬儀関連の費用でも、以下は会社が負担しても経費(福利厚生費)として認められません。遺族側が負担するものとみなされているためです。
| 認められない支出 | 処理方法(もし会社が負担した場合) |
|---|---|
| 墓地・仏壇の購入費用 | 遺族への寄付金(損金不算入) |
| 戒名料 | 遺族への寄付金(損金不算入) |
| 香典返し費用 | 遺族への寄付金(損金不算入) |
| 火葬料・納骨料 | 遺族への寄付金(損金不算入) |
| 初七日・四十九日の法要費用 | 遺族への寄付金(損金不算入) |
| 死亡診断書料 | 遺族への寄付金(損金不算入) |
会社が施主となる社葬の費用は、故人の会社への貢献度・死亡理由によって「福利厚生費として全額損金算入できる場合」があります。創業者・経営層・業務上の死亡が主な対象です。社葬を検討する場合は事前に税理士に確認してください。
領収書がない場合の証明方法
葬儀の受付では領収書は発行されません。これは税務署も理解しており、以下の証明書類で対応できます。
| 証明書類 | 内容 | 有効性 |
|---|---|---|
| 弔慰金支給申請書(所定様式) | 慶弔規程に基づく申請書(承認印あり) | ◎ 最も信頼性が高い |
| 会葬案内状(コピー) | 通夜・葬儀の日時・場所・故人氏名が記載 | ◎ 確実。必ず受け取って保管する |
| 訃報通知のコピー | 故人・日時・会場の記載があるもの | ○ 有効 |
| 出金伝票・支払メモ | 日付・支払先・目的・金額・支払者を記載した内部文書 | ○ 有効(内部文書として) |
仕訳の摘要欄に「相手先氏名・続柄・用途(香典)」を必ず記入します。「営業部○○様 ご尊父ご逝去 香典」のように具体的に書いておくと、税務調査の際にスムーズに説明できます。
慶弔規程のサンプル条文(コピーして使える)
慶弔規程を整備しておくことで、担当者の判断負担が減り、従業員への説明も一貫性が保てます。税務上の根拠としても機能します。
第○条 この規程は、従業員及びその家族に弔事が生じた場合に、会社として
弔慰の意を表するための基準を定めることを目的とする。
(支給対象者)
第○条 弔慰金の支給対象者は次の各号に掲げる者とする。
(1) 正規雇用従業員
(2) 契約社員(雇用期間3か月以上)
(3) パートタイム従業員(週20時間以上の勤務者)
(4) 退職後3か月以内に死亡した元従業員(勤続1年以上の者)
(弔慰金の金額)
第○条 弔慰金の支給額は次のとおりとする。
■従業員本人の死亡
一般社員: 30,000円
主任・係長: 50,000円
課長・管理職: 70,000円
部長以上・役員:100,000円(税務上の要件に留意し都度確認)
■従業員の家族の死亡
配偶者・父母・子ども:20,000円
祖父母・兄弟姉妹: 10,000円
(申請手続き)
第○条 従業員は、弔事が生じた場合、速やかに直属の上司を経由して
人事担当部署に申請する。申請には次の書類を添付すること。
(1) 弔慰金支給申請書(所定様式)
(2) 会葬案内状または訃報通知(写し)
(支給方法)
第○条 弔慰金は申請承認後、速やかに現金または口座振込にて支給する。
(証憑の保管)
第○条 申請書・会葬案内状・仕訳明細は税務関係書類として7年間保管する。
(雑則)
第○条 この規程に定めのない事項については、その都度会社が判断する。
①公平性の担保:同じ状況なら同じ金額になるよう、続柄・役職による区分を明確に。特定の社員だけが多くなると給与認定リスクが生まれます。
②周知が重要:就業規則に組み込むか、入社時の配布書類に含めましょう。従業員が知らない規程は意味をなしません。
③定期的な見直し:物価・社会状況の変化に合わせて2〜3年おきに金額を見直すことをお勧めします。
訃報受領から経費処理までのフロー
故人氏名・続柄・通夜・葬儀の日時場所・宗教宗派・家族葬かどうか・香典辞退の有無を確認。プライバシーへの配慮を忘れずに
直属上司への報告 → 人事・総務担当への共有 → 慶弔規程に基づく金額の決定・承認。規程がない場合は今回の対応を規程整備のきっかけに
宗派に合った表書き(浄土真宗は「御霊前」ではなく「御仏前」)。新札は避け、肖像が見えないよう裏向きに封入。筆ペンで楷書に
通夜または葬儀の受付で渡すのが原則。家族葬で参列辞退の場合は現金書留で郵送(お悔やみの手紙を同封し、葬儀前日着を目標に手配)
福利厚生費(または接待交際費)で仕訳。摘要欄に「相手先氏名・続柄・用途」を記載。会葬案内状または申請書を証憑として保管
弔慰金支給申請書・承認記録・会葬案内状コピー・仕訳明細を7年間保管
家族葬・香典辞退への対応
| 状況 | 対応方法 |
|---|---|
| 香典辞退の意向を受けた | 意向を最優先に尊重。弔電のみ送付し、後日(忌明け後)従業員本人に直接お悔やみを伝える。弔電は辞退の連絡がない限り送って構わない |
| 家族葬で参列を辞退された | 現金書留で郵送(葬儀前日着)。または忌明け後に従業員が出社した際に直接渡す |
| 訃報を後から知った | 四十九日前であれば訪問または郵送で対応。時期が過ぎた場合は直接従業員に渡す |
香典辞退の場合でも、弔電・声かけ・忌引き休暇の配慮など、弔意を形にする手段は多くあります。金額より「会社として気にかけている」ということが伝わることが大切です。
よくある質問
□ 故人氏名・続柄・通夜・葬儀の日時場所を確認した
□ 宗教宗派・香典辞退の有無を確認した
□ 慶弔規程に基づく金額を決定し、承認を取得した
□ 宗派に適した香典袋を選択し、正しい表書き・金額記載をした(浄土真宗は「御仏前」)
□ 新札を避け、お札の向きを揃えて封入した
□ 弔電・供花の手配要否を確認した
□ 受付での渡し方(直接参列 or 郵送)を決定した
□ 福利厚生費(または接待交際費)で仕訳し、摘要欄に「相手先・続柄・香典」を記載した
□ 弔慰金支給申請書または会葬案内状コピーを証憑として保管した
□ 消費税区分(香典・弔電は不課税、供花・交通費は課税)を確認した
□ 税務関係書類として7年間保管する準備をした
まとめ:会社の香典対応・経理処理の要点
- 従業員・役員とその家族への香典=福利厚生費。取引先への香典=接待交際費
- 福利厚生費として認められる3要件:①全員対象・②社会通念上相当な金額・③慶弔規程の整備
- 役員への慶弔金は「役員賞与(損金不算入)」リスクあり——規程整備と税理士への相談が重要
- 相場:配偶者・父母・子ども10,000〜30,000円、祖父母・兄弟姉妹5,000〜10,000円が目安
- 10万円超は給与認定リスク——金額の根拠を文書で残すこと
- 個人事業主が私費から出した場合は貸方を「事業主借」にする
- 香典・弔電は不課税、供花・交通費は課税(10%)——仕訳を分けて記録する
- 仏壇・墓地・戒名料・香典返し・法要費用などは経費として認められない
- 領収書がなくても会葬案内状・申請書・出金メモで経費処理できる
- 証憑書類(申請書・案内状・仕訳明細)は7年間保管
- 香典辞退でも弔電・声かけなど「弔意を形にする行動」は必要
※税務処理の詳細は税理士にご確認ください
