遺言書法務局保管制度の手続き完全ガイド|安心・確実な遺言書保管の全てを専門家が解説

「遺言書を書いたけれど、どこに保管すればいいかわからない」「法務局で保管できると聞いたけれど、手続きが複雑そう」「自筆証書遺言が無効になるリスクを避けたい」

このような不安を抱えていませんか。遺言書は故人の最後の意思を示す重要な文書ですが、適切に保管されなければその効力を発揮できません。紛失、改ざん、発見されないリスクを避けるために、2020年7月から開始された「自筆証書遺言書保管制度」は画期的なサービスです。

この記事を読むことで、以下のことが明確になります:

  • 法務局保管制度の具体的なメリット・デメリット
  • 他の保管方法(公正証書遺言、自宅保管等)との徹底比較
  • 申請から保管、相続時の手続きまでの完全な流れ
  • 手続き費用と必要書類の詳細リスト
  • よくある失敗事例と確実な対策方法
  • 専門家が推奨する最適な遺言書作成・保管戦略

故人の想いを確実に家族に届け、相続トラブルを未然に防ぐための、実践的で信頼できる情報をお届けします。

  1. 遺言書保管制度の全体像とカテゴリー分析
    1. 遺言書の種類と保管方法の分類
    2. 法務局保管制度が選ばれる理由
  2. 法務局保管制度の徹底解説
    1. 制度の概要と法的根拠
    2. 保管手続きの詳細フロー
    3. 料金体系の詳細分析
  3. 他の保管方法との徹底比較
    1. 安全性・確実性の比較
    2. 手続きの複雑さ・負担の比較
  4. 申請手続きの実践的ガイド
    1. 遺言書作成時の注意点
    2. 法務局選択の戦略的考慮
    3. 必要書類の詳細解説
  5. 保管後の管理と活用方法
    1. 保管証の重要性と管理方法
    2. 内容変更・撤回の手続き
    3. 家族への情報共有戦略
  6. 相続時の手続き完全ガイド
    1. 遺言書発見から執行までの流れ
    2. 相続人以外でも取得可能なケース
    3. 検認手続き省略のメリット
  7. よくある失敗事例とトラブル回避術
    1. 失敗事例1:不適切な様式による無効化
    2. 失敗事例2:保管証の紛失による混乱
    3. 失敗事例3:相続人への配慮不足によるトラブル
    4. 失敗事例4:財産内容の特定不足
    5. 失敗事例5:遺言執行者の指定ミス
  8. 専門家が推奨する最適戦略
    1. 遺言書作成・保管の段階別推奨戦略
    2. 財産規模別の推奨戦略
    3. 家族構成別の配慮事項
  9. 利用・実行のステップ解説
    1. Phase 1:準備段階(1-2か月)
    2. Phase 2:作成・申請段階(2-3週間)
    3. Phase 3:管理・活用段階(継続的)
  10. 結論:あなたへの最適な選択はこれ
    1. タイプ別推奨戦略
    2. 年代別推奨戦略
    3. 最終的な判断基準
  11. よくある質問(Q&A)
    1. Q1:法務局保管制度は本当に安全ですか?
    2. Q2:パソコンで作成した遺言書は保管できませんか?
    3. Q3:保管証をなくした場合、遺言書はどうなりますか?
    4. Q4:遺言書の内容を途中で確認できますか?
    5. Q5:法務局が廃止された場合、遺言書はどうなりますか?
    6. Q6:外国在住の日本人でも利用できますか?
    7. Q7:認知症になった後でも作成できますか?
    8. Q8:夫婦で同じ遺言書を作成できますか?

遺言書保管制度の全体像とカテゴリー分析

遺言書の種類と保管方法の分類

遺言書には大きく分けて「自筆証書遺言」「公正証書遺言」「秘密証書遺言」の3種類があります。このうち、法務局保管制度の対象となるのは自筆証書遺言のみです。

【遺言書の種類別比較】

種類作成方法費用保管場所検認の必要性
自筆証書遺言(法務局保管)全文自筆3,900円法務局不要
自筆証書遺言(自宅保管)全文自筆0円自宅等必要
公正証書遺言公証人作成5万円~公証役場不要
秘密証書遺言本人作成11,000円自宅等必要

【保管方法別のメリット・デメリット】

自筆証書遺言(法務局保管)

  • メリット:費用が安い、検認不要、紛失・改ざんリスクなし、形式チェックあり
  • デメリット:内容の法的妥当性は保証されない、全文自筆が必要

公正証書遺言

  • メリット:法的確実性が最も高い、内容相談可能、原本が公証役場に保管
  • デメリット:費用が高い、証人2名が必要、秘密性に制約

自宅保管

  • メリット:費用0円、完全な秘密保持
  • デメリット:紛失・改ざんリスク、発見されないリスク、検認手続き必要

法務局保管制度が選ばれる理由

法務局保管制度は、「公正証書遺言ほど費用をかけたくないが、自宅保管のリスクは避けたい」という方に最適な選択肢です。特に以下のような方におすすめします:

  • 初回作成者:遺言書を初めて作成し、まずは安全に保管したい
  • 費用重視の方:公正証書遺言の費用負担を避けたい
  • プライバシー重視の方:家族に知られることなく遺言書を保管したい
  • 頻繁な変更予定者:内容を度々見直す可能性がある

法務局保管制度の徹底解説

制度の概要と法的根拠

自筆証書遺言書保管制度は、「法務局における遺言書の保管等に関する法律」(令和2年7月10日施行)に基づく国の制度です。全国約300箇所の法務局(遺言書保管所)で、自筆証書遺言を安全に保管し、相続時の手続きを円滑化することを目的としています。

【専門家の視点】 終活カウンセラーとして多くの方の相談を受ける中で、この制度の最大の価値は「検認手続きの省略」にあると感じています。家庭裁判所での検認は、相続人全員への通知、期日調整、出廷など、悲しみの中にある遺族にとって大きな負担となります。法務局保管により、この負担を完全に回避できることは、遺族への最後の思いやりといえるでしょう。

保管手続きの詳細フロー

【ステップ1:事前準備(所要期間:1-2週間)】

  1. 遺言書の作成
    • 全文を自筆で記載(パソコン・代筆不可)
    • 日付、氏名を自筆で記載
    • 押印(認印可、シャチハタ不可)
  2. 様式確認
    • 用紙:A4サイズ
    • 余白:上部5mm以上、下部10mm以上、左右20mm以上、横書きの場合は右側に20mm以上
    • 記載:片面のみ使用、訂正は法定の方式に従う
  3. 必要書類の準備
    • 申請書(法務局窓口またはHPで入手)
    • 本人確認書類(運転免許証、マイナンバーカード等)
    • 住民票の写し(作成から3か月以内)
    • 遺言書

【ステップ2:保管申請(所要時間:30分-1時間)】

  1. 法務局の選択 以下のいずれかの法務局を選択:
    • 遺言者の住所地
    • 遺言者の本籍地
    • 遺言者が所有する不動産の所在地
  2. 予約申請
    • 法務局手続案内予約サービスまたは電話で予約
    • 平日のみ対応(土日祝日は受付なし)
    • 予約は1か月前から可能
  3. 窓口での手続き
    • 本人による申請(代理人不可)
    • 法務局職員による形式確認
    • 手数料3,900円の納付

【ステップ3:保管証の受領】

  • 保管証の交付(再発行不可のため厳重保管必要)
  • 保管番号の確認
  • 家族等への通知(任意)

料金体系の詳細分析

【基本料金】

手続き内容手数料備考
遺言書保管申請3,900円1通につき
遺言書閲覧(遺言者)1,700円モニター閲覧
遺言書閲覧(原本)1,700円遺言者のみ
保管証明書交付800円1通につき
遺言書情報証明書1,400円相続時に必要

【専門家の視点:コストパフォーマンス分析】 公正証書遺言の場合、基本手数料だけで5万円程度、複雑な内容なら10万円を超えることも珍しくありません。それに対し、法務局保管制度は3,900円で同等の安全性を確保できます。ただし、公正証書遺言には法的内容のチェックが含まれるため、複雑な財産構成や法的判断が必要な場合は、専門家への相談費用を別途考慮する必要があります。

他の保管方法との徹底比較

安全性・確実性の比較

【保管場所別リスク分析】

保管方法紛失リスク改ざんリスク発見リスク災害リスク
法務局保管なしなしなしなし
公証役場保管なしなしなしなし
自宅保管
銀行貸金庫
弁護士事務所なし

【相続時の手続き比較】

法務局保管の場合

  1. 相続人等による「遺言書情報証明書」の請求
  2. 他の相続人等への通知(法務局から自動送付)
  3. 遺言執行開始
  • 検認手続き:不要
  • 所要期間:1-2週間

自宅保管の場合

  1. 遺言書の発見・家庭裁判所への提出
  2. 検認期日の調整・相続人全員への通知
  3. 検認期日での確認手続き
  4. 検認済証明書の取得
  5. 遺言執行開始
  • 検認手続き:必要
  • 所要期間:2-3か月

手続きの複雑さ・負担の比較

【作成時の負担】

自筆証書遺言(法務局保管)

  • 事前準備:★★☆(様式の理解必要)
  • 書類作成:★★☆(住民票等の取得)
  • 手続き時間:★★☆(30分-1時間)
  • 専門知識:★☆☆(基本的な法知識で可能)

公正証書遺言

  • 事前準備:★★★(証人の手配、資料収集)
  • 書類作成:★★★(財産目録等の詳細資料)
  • 手続き時間:★★★(複数回の打合せ)
  • 専門知識:★☆☆(公証人がサポート)

自宅保管

  • 事前準備:★☆☆(最小限)
  • 書類作成:★☆☆(遺言書のみ)
  • 手続き時間:★☆☆(作成のみ)
  • 専門知識:★★★(法的知識必要)

申請手続きの実践的ガイド

遺言書作成時の注意点

【必須記載事項チェックリスト】

日付の記載

  • 「令和6年8月9日」のように年月日を特定
  • 「8月吉日」等の曖昧な表記は無効

氏名の記載

  • 戸籍に記載された氏名を正確に記載
  • 通称名やペンネームは使用不可

押印

  • 実印・認印いずれでも可(シャチハタは不可)
  • 指印での代用は法的に有効だが推奨されない

全文自筆

  • 代筆・パソコン入力は一切不可
  • 財産目録のみパソコン作成可(各頁に署名・押印必要)

【専門家の視点:よくある記載ミス】 20年以上の経験で最も多いミスは「日付の不備」です。「令和6年8月」のように日まで記載しない、複数の候補日を併記する、修正液で訂正するなどは全て無効となります。また、「長男に全財産を相続させる」のような曖昧な表現も、後にトラブルの原因となりがちです。

法務局選択の戦略的考慮

【選択可能な法務局】

  1. 住所地の法務局
    • メリット:アクセスしやすい、土地勘がある
    • デメリット:転居時の手続きが必要
  2. 本籍地の法務局
    • メリット:本籍変更は稀なため長期安定
    • デメリット:遠方の場合アクセス困難
  3. 不動産所在地の法務局
    • メリット:主要財産の所在地で管理
    • デメリット:不動産売却時の考慮必要

【専門家推奨の選択基準】

  • 居住予定10年以上:住所地を選択
  • 転居予定あり:本籍地を選択
  • 主要財産が不動産:不動産所在地を選択

必要書類の詳細解説

【本人確認書類】

書類名有効期限注意事項
運転免許証有効期限内IC免許証の場合は表裏両面
マイナンバーカード有効期限内個人番号通知カードは不可
パスポート有効期限内新旧パスポート混在時は新のみ
在留カード有効期限内外国人の場合

【住民票の写しの注意点】

  • 発行から3か月以内
  • 本籍地の記載は不要
  • 世帯全員分は不要(本人分のみ)
  • マイナンバーの記載は不要

【申請書記載の重要ポイント】

  • 黒色ボールペンで記載(鉛筆・消せるペン不可)
  • 訂正は二重線+押印(修正テープ・修正液不可)
  • 法務局での確認後の変更は再申請が必要

保管後の管理と活用方法

保管証の重要性と管理方法

保管証は遺言書の存在を証明する唯一の書類で、再発行ができません。以下の管理方法を推奨します:

【保管証の管理戦略】

  1. 原本の保管
    • 耐火金庫または銀行貸金庫
    • 直射日光・湿気を避ける
    • 定期的な状態確認
  2. コピーの作成
    • 保管証番号の記録
    • 保管先法務局の情報
    • 家族への情報共有用
  3. 緊急時の対策
    • 信頼できる家族への保管場所通知
    • エンディングノートへの記載
    • 定期的な保管確認

内容変更・撤回の手続き

【遺言書の変更方法】

  1. 新しい遺言書の作成・保管
    • 前の遺言書は自動的に無効
    • 同一法務局での保管推奨
    • 古い保管証は適切に処分
  2. 保管の撤回
    • 本人による撤回申請
    • 保管証の返納
    • 手数料は不要

【専門家の視点:変更時期の判断】 以下の状況では遺言書の見直しを推奨します:

  • 結婚・離婚・再婚時
  • 子の誕生・養子縁組時
  • 主要財産の売却・取得時
  • 相続人の死亡時
  • 法改正時(相続法等)

家族への情報共有戦略

【段階的開示の推奨】

レベル1:基本情報の共有

  • 遺言書作成の事実
  • 保管方法(法務局保管)
  • 緊急連絡先

レベル2:詳細情報の共有

  • 保管証の保管場所
  • 保管先法務局
  • 主要内容の概要

レベル3:完全情報の共有

  • 保管証のコピー
  • 詳細な財産内容
  • 遺言執行者の指定

【開示タイミングの判断基準】

  • 即座に開示:高齢・病気等のリスクがある場合
  • 段階的開示:家族関係が良好で時間的余裕がある場合
  • 最小限開示:家族間に複雑な事情がある場合

相続時の手続き完全ガイド

遺言書発見から執行までの流れ

【Step 1:死亡届提出(7日以内)】

  • 市区町村役場への提出
  • 火葬許可証の取得
  • 葬儀社との打合せ

【Step 2:遺言書の確認(1週間以内)】

  • 保管証の確認
  • 法務局への問い合わせ
  • 相続人の把握

【Step 3:遺言書情報証明書の請求(2週間以内)】 必要書類:

  • 請求書
  • 本人確認書類
  • 相続関係を示す戸籍謄本等
  • 手数料1,400円

【Step 4:他相続人への通知確認(自動)】

  • 法務局から他の相続人等に通知書送付
  • 遺言書の存在が正式に伝達
  • トラブル防止効果

【Step 5:遺言執行(1-3か月)】

  • 遺言執行者の就任
  • 財産調査・評価
  • 具体的な分割実行

相続人以外でも取得可能なケース

【取得権限者の範囲】

  1. 相続人
    • 配偶者、子、直系尊属、兄弟姉妹
    • 代襲相続人を含む
  2. 受遺者
    • 遺言により財産を受ける者
    • 法人・団体も含む
  3. 遺言執行者
    • 遺言で指定された者
    • 家庭裁判所により選任された者

【請求に必要な書類】

請求者基本書類追加書類
相続人戸籍謄本相続関係説明図
受遺者遺言書写し本人確認書類
遺言執行者選任審判書就任承諾書

検認手続き省略のメリット

【時間的メリット】

  • 検認手続き:2-3か月 → 証明書取得:1-2週間
  • 短縮期間:約2か月

【精神的メリット】

  • 家庭裁判所への出廷不要
  • 相続人全員の日程調整不要
  • 法的手続きの心理的負担軽減

【経済的メリット】

  • 検認申請手数料:800円(収入印紙)
  • 戸籍謄本等取得費用:数千円~数万円
  • 弁護士依頼の場合:5-10万円

【専門家の視点:検認回避の真の価値】 検認手続きの省略は、単純な時間短縮以上の意味があります。家庭裁判所での手続きは、法的な側面が強く、遺族にとって心理的負担となりがちです。特に、相続人間に感情的な対立がある場合、検認期日での顔合わせが新たなトラブルの火種となることもあります。法務局保管により、このようなリスクを完全に回避できます。

よくある失敗事例とトラブル回避術

失敗事例1:不適切な様式による無効化

【事例】 「A4用紙に書いたつもりだったが、実際はB4用紙だった。法務局で受付を拒否され、急遽書き直すことになった。高齢のため手が震え、再作成に1か月以上かかってしまった。」

【原因分析】

  • 用紙サイズの確認不足
  • 事前の様式チェック不備
  • 余白設定の理解不足

【回避策】 ✅ A4用紙の事前購入・確認 ✅ 定規での余白測定 ✅ 法務局HPでの様式確認 ✅ 不安な場合の事前相談

失敗事例2:保管証の紛失による混乱

【事例】 「遺言者が保管証をなくしてしまい、家族が遺言書の存在に気づかなかった。相続手続きを進めた後、偶然に遺言書の存在が判明し、既に行った分割協議が無効となってしまった。」

【原因分析】

  • 保管証の管理方法が不適切
  • 家族への情報共有不足
  • バックアップ体制の欠如

【回避策】 ✅ 保管証の複数箇所での保管 ✅ 家族への保管場所通知 ✅ エンディングノートへの記載 ✅ 定期的な所在確認

失敗事例3:相続人への配慮不足によるトラブル

【事例】 「長男にのみ不動産を相続させる内容の遺言書を作成。法的には有効だったが、他の相続人から『遺留分侵害額請求』を受け、結果的に長期間の争いとなった。」

【原因分析】

  • 遺留分制度の理解不足
  • 他相続人への配慮欠如
  • 事前の話し合い不足

【回避策】 ✅ 遺留分制度の事前理解 ✅ 専門家への相談 ✅ 家族での事前協議 ✅ 付言事項での思いの表現

失敗事例4:財産内容の特定不足

【事例】 「『銀行預金をすべて長女に』と記載したが、複数銀行の複数口座があり、どれを指すのか特定できず、結局相続人間での話し合いが必要となった。」

【原因分析】

  • 財産の特定不足
  • 具体的記載の欠如
  • 将来変動への考慮不足

【回避策】 ✅ 金融機関名・支店名・口座番号の明記 ✅ 不動産の地番・家屋番号の正確な記載 ✅ 定期的な内容見直し ✅ 包括的な記載と具体的記載の併用

失敗事例5:遺言執行者の指定ミス

【事例】 「遺言執行者に指定した長男が先に亡くなってしまい、遺言執行者不在の状態となった。家庭裁判所での選任手続きが必要となり、相続手続きが大幅に遅延した。」

【原因分析】

  • 予備執行者の指定なし
  • 年齢差の考慮不足
  • 定期的な見直し不足

【回避策】 ✅ 予備執行者の指定 ✅ 年齢や健康状態の考慮 ✅ 専門家の活用検討 ✅ 定期的な遺言書見直し

専門家が推奨する最適戦略

遺言書作成・保管の段階別推奨戦略

【初回作成段階】 推奨:法務局保管制度

  • 理由:低コストで安全性確保
  • 期間:作成から10年程度を想定
  • 注意:内容は基本的事項に限定

【資産形成段階】 推奨:法務局保管→公正証書遺言への移行

  • 理由:複雑な財産構成への対応
  • 期間:50-60代での切り替え
  • 注意:専門家との相談開始

【高齢期段階】 推奨:公正証書遺言+法務局保管の併用

  • 理由:認知症リスクへの備え
  • 期間:70代以降
  • 注意:定期的な見直し体制確立

財産規模別の推奨戦略

【財産1,000万円未満】

  • 推奨方法:法務局保管制度
  • 作成頻度:5年に1回程度
  • 専門家相談:初回のみ

【財産1,000万円~5,000万円】

  • 推奨方法:法務局保管(初回)→公正証書遺言
  • 作成頻度:3年に1回程度
  • 専門家相談:定期的な相談

【財産5,000万円以上】

  • 推奨方法:公正証書遺言
  • 作成頻度:2年に1回程度
  • 専門家相談:専属アドバイザー契約

家族構成別の配慮事項

【配偶者+子のいる家庭】

  • 配偶者居住権の活用検討
  • 教育資金の確保
  • 遺留分への配慮

【子のいない夫婦】

  • 配偶者への全財産承継
  • 義理の親族との関係考慮
  • 慈善団体への寄付検討

【単身者】

  • 甥姪への承継検討
  • 慈善事業への寄付
  • 身元保証人との調整

【再婚家庭】

  • 前婚の子への配慮
  • 現配偶者との子への配慮
  • 複雑な相続関係の整理

利用・実行のステップ解説

Phase 1:準備段階(1-2か月)

【1週目:情報収集】

  • 制度概要の理解
  • 必要書類の確認
  • 法務局の選定

【2週目:財産調査】

  • 預貯金口座の整理
  • 不動産登記の確認
  • 有価証券の把握
  • 負債の確認

【3週目:相続人調査】

  • 戸籍謄本の取得
  • 相続関係図の作成
  • 遺留分の計算

【4週目:遺言書原案作成】

  • 基本構成の決定
  • 具体的財産の特定
  • 遺言執行者の検討

Phase 2:作成・申請段階(2-3週間)

【1週目:遺言書作成】

  • 清書用紙の準備
  • 一気に清書完成
  • 誤字脱字の最終確認

【2週目:必要書類準備】

  • 住民票の取得
  • 申請書の記入
  • 本人確認書類の準備

【3週目:申請手続き】

  • 法務局での予約
  • 窓口での申請
  • 保管証の受領

Phase 3:管理・活用段階(継続的)

【保管証管理】

  • 安全な場所での保管
  • 家族への情報共有
  • 定期的な確認

【内容見直し】

  • 年1回の内容確認
  • 法改正への対応
  • 家族状況変化への対応

【相続準備】

  • エンディングノートの作成
  • 家族との対話
  • 専門家との関係構築

結論:あなたへの最適な選択はこれ

タイプ別推奨戦略

【初心者・コスト重視タイプ】 → 法務局保管制度を強く推奨

  • 3,900円の低コストで始められる
  • 基本的な安全性は十分確保
  • 将来的な変更も柔軟に対応可能

【資産家・確実性重視タイプ】 → 公正証書遺言を推奨

  • 法的確実性が最も高い
  • 複雑な財産構成にも対応
  • 専門家のサポートが充実

【プライバシー重視タイプ】 → 法務局保管制度を推奨

  • 家族に知られずに手続き可能
  • 必要な時のみ情報開示
  • 秘密保持が確実

【頻繁変更予定タイプ】 → 法務局保管制度→公正証書遺言の段階移行を推奨

  • 初期は低コストで柔軟に変更
  • 内容固定後に公正証書で確実化
  • 総合的なコストパフォーマンス最適

年代別推奨戦略

【40-50代】 法務局保管制度でスタート、内容充実に応じて公正証書遺言への移行を検討

【60-70代】 財産規模・複雑性に応じて公正証書遺言を主体に、補完的に法務局保管制度を活用

【70代以上】 認知症リスクを考慮し、可能な限り早期に公正証書遺言で確実化

最終的な判断基準

  1. 費用対効果:年間収入の0.1-0.5%程度を遺言書関連費用の目安とする
  2. 家族関係:良好な関係なら法務局保管、複雑なら公正証書遺言
  3. 財産構成:シンプルなら法務局保管、複雑なら公正証書遺言
  4. 健康状態:良好なら段階的対応、不安なら早期確実化

【専門家からの最終メッセージ】 遺言書は「書くこと」よりも「確実に効力を発揮すること」が重要です。法務局保管制度は、多くの方にとって最初の一歩として最適な選択肢となるでしょう。ただし、どんなに制度が優れていても、内容が不適切では意味がありません。定期的な見直しと、必要に応じた専門家への相談を心がけ、大切な家族への最後の贈り物として、心を込めた遺言書を残していただければと思います。

よくある質問(Q&A)

Q1:法務局保管制度は本当に安全ですか?

A: 国の制度として最高レベルの安全性が確保されています。具体的には以下の通りです:

  • 物理的安全性:耐火・耐震構造の専用保管庫で管理
  • データ安全性:電子データでもバックアップ保管
  • アクセス制限:権限者以外は閲覧不可
  • 災害対策:複数拠点でのデータ保管

20年以上この業界に携わる中で、自宅保管での紛失や家族間での隠匿といったトラブルを数多く見てきました。国の制度による保管は、これらのリスクを完全に排除できる画期的なサービスです。

Q2:パソコンで作成した遺言書は保管できませんか?

A: 残念ながら、パソコンで作成した遺言書は法務局保管制度の対象外です。ただし、以下の例外があります:

保管可能なケース

  • 遺言書本文:全文自筆
  • 財産目録のみ:パソコン作成可(各頁に署名・押印必要)

保管不可なケース

  • 遺言書本文のパソコン作成
  • 代筆による作成
  • 音声・動画による遺言

高齢などで自筆が困難な場合は、公正証書遺言の利用をお勧めします。

Q3:保管証をなくした場合、遺言書はどうなりますか?

A: 保管証の再発行はできませんが、遺言書そのものは法務局で安全に保管され続けます。

保管証紛失時の対応策

  1. 相続開始前:遺言者本人による内容確認・撤回は制限される
  2. 相続開始後:相続人等は戸籍謄本等により遺言書情報証明書を取得可能

予防策

  • 保管証番号の別途記録
  • 信頼できる家族への情報共有
  • エンディングノートへの記載

Q4:遺言書の内容を途中で確認できますか?

A: 遺言者本人のみ、以下の方法で確認可能です:

確認方法

  • モニター閲覧:1,700円(遺言書保管所にて)
  • 原本閲覧:1,700円(保管している遺言書保管所のみ)
  • 遺言書情報証明書:1,400円

注意点

  • 代理人による確認は不可
  • 相続開始前は遺言者以外は確認不可
  • 保管証が必要

Q5:法務局が廃止された場合、遺言書はどうなりますか?

A: 法務局の統廃合等があっても、遺言書の保管に影響はありません。

継続保管の仕組み

  • 統合先法務局での継続保管
  • 電子データでの確実な移管
  • 保管場所変更の事前通知

専門家の視点 法務局の統廃合は過去にも実施されていますが、重要書類の保管に支障が生じた事例はありません。国の制度として永続的な保管が前提となっています。

Q6:外国在住の日本人でも利用できますか?

A: 日本国籍があれば利用可能ですが、手続き上の制約があります。

利用条件

  • 日本国籍を有すること
  • 本人による直接申請(代理人不可)
  • 住民票の写しまたは戸籍附票の提出

実務的課題

  • 一時帰国時の手続きが必要
  • 海外からの郵送申請は不可
  • 保管証の海外送付リスク

海外在住の場合は、現地での公正証書遺言作成も併せて検討されることをお勧めします。

Q7:認知症になった後でも作成できますか?

A: 認知症の程度により判断が分かれます。

作成可能なケース

  • 軽度認知症で判断能力が保たれている
  • 医師の診断書で能力が証明されている
  • 家族の同席・確認がある

作成困難なケース

  • 重度認知症で意思能力が不明確
  • 後見開始の審判を受けている
  • 内容理解が困難

事前対策

  • 健康な時期での早期作成
  • 定期的な内容見直し
  • 家族信託等の活用検討

認知症のリスクを考慮し、60代後半までには基本的な遺言書を作成されることを強くお勧めします。

Q8:夫婦で同じ遺言書を作成できますか?

A: 共同遺言は法的に無効となるため、必ず個別に作成してください。

無効となるケース

  • 夫婦連名での1通の遺言書
  • 同一用紙への夫婦それぞれの記載
  • 相互に関連する内容の同時作成

適切な作成方法

  • 夫婦それぞれが独立して作成
  • 別々の用紙での作成
  • 内容の相互確認・調整

専門家の視点 夫婦の遺言書は内容の整合性が重要です。一方が先に亡くなった場合を想定し、配偶者居住権や二次相続対策も含めた総合的な設計をお勧めします。