相続税法基本通達 21の3-9
所得税基本通達 9-23
国税庁 No.4120(弔慰金)
「葬儀でもらった香典に税金はかかるの?」「会社からの弔慰金は相続税の対象?」——この記事では、国税庁の通達・タックスアンサーに基づいて香典・弔慰金・香典返しの税務上の扱いを正確に整理します。
※税務の個別判断は税理士にご相談ください。
結論:通常の香典に税金はかかりません
✅ 香典は原則として全税目で非課税
個人から受け取る香典は、相続税・贈与税・所得税のいずれもかかりません。
ただし、「社会通念上相当と認められる金額を超える場合」は課税の問題が生じる可能性があります。
なぜ非課税になるのか、それぞれの税目との関係を整理します。
なぜ非課税か——3つの税目との関係
相続税との関係
香典は、参列者が喪主(遺族)に贈る金銭であり、故人の財産ではありません。故人の財産ではない以上、相続税の課税対象となる「相続財産」にはそもそも含まれません。
📋 相続税法基本通達 21の3-9(社交上必要と認められる香典等の非課税の取扱い)
個人から受ける香典、花輪代、年末年始の贈答、祝物又は見舞い等のための金品で、法律上贈与に該当するものであっても、社交上の必要によるもので贈与者と受贈者との関係等に照らして社会通念上相当と認められるものについては、贈与税を課税しないことに取り扱うものとする。
贈与税との関係
香典は法律上は「贈与」に該当しますが、相続税法基本通達21の3-9により、社会通念上相当な範囲であれば贈与税は課税されません。よくある誤解として「年間110万円の基礎控除を超えたら申告が必要」という話がありますが、香典はそもそも申告対象外です(110万円控除は別の制度)。
所得税との関係
📋 所得税基本通達 9-23(葬祭料、香典等)
葬祭料、香典又は災害等の見舞金で、その金額がその受贈者の社会的地位、贈与者との関係等に照らし社会通念上相当と認められるものについては、令第30条の規定により課税しないものとする。
所得税法施行令第30条(非課税所得)により、香典は非課税所得として扱われます。確定申告での申告も不要です。
💡 「社会通念上相当と認められる金額」とは
法令・通達に具体的な金額は定められていません。一般的に、贈る人と受け取る人の関係・故人の社会的地位・地域の慣行などを総合的に判断します。親族間で数万〜数十万円の範囲であれば通常は問題ありませんが、突出して高額な場合(数百万円規模の単一香典など)は税理士への確認が安心です。
香典と弔慰金——似て非なる2つの概念
「香典」と「弔慰金」はよく混同されますが、税務上の扱いが異なるため区別が重要です。
| 項目 | 香典(こうでん) | 弔慰金(ちょういきん) |
|---|---|---|
| 誰から | 参列者(個人) | 主に勤務先(会社・法人) |
| 渡す場面 | 通夜・葬儀当日 | 葬儀後に銀行振込等で支給 |
| 宗教的意味 | あり(霊前に供える) | なし(遺族への慰め・生活保障) |
| 課税の基準 | 社会通念上相当な範囲→非課税 | 相続税法基本通達3-20の非課税枠あり |
| 高額時の課税 | 贈与税・所得税の可能性 | 非課税枠超過分→みなし相続財産(相続税) |
会社からの弔慰金の非課税枠(国税庁 No.4120)
会社・法人から受け取る弔慰金は、非課税限度額が法令で明確に定められています。これを超えた部分は「みなし相続財産(死亡退職金)」として相続税の対象になります。
| 死亡の区分 | 非課税となる弔慰金の上限 |
|---|---|
| 業務上の死亡 業務遂行中・通勤中・出張中など業務との因果関係が認められる場合 |
死亡当時の普通給与 × 3年分(36か月分) |
| 業務外の死亡 私的な病気・事故など業務との関係がない場合 |
死亡当時の普通給与 × 半年分(6か月分) |
「普通給与」とは、毎月の給料・扶養手当・勤務地手当などの合計額です。賞与(ボーナス)は含みません。
🔢 計算例
普通給与40万円/月の人が業務上の事故で死亡 → 非課税枠 = 40万円 × 36か月 = 1,440万円。弔慰金が1,440万円以内なら相続税ゼロ。
普通給与30万円/月の人が業務外(病気)で死亡 → 非課税枠 = 30万円 × 6か月 = 180万円。弔慰金が200万円なら、超過分20万円が課税対象(みなし相続財産)。
⚠ 非課税枠を超えた部分は「死亡退職金」として申告が必要
弔慰金の非課税枠を超えた部分は、死亡退職金と合算して相続税申告書の第10表(退職手当金などの明細書)に記載します。死亡退職金には別途「500万円 × 法定相続人の数」の非課税枠があります。計算が複雑になる場合は税理士へご相談ください。
香典はどう使う?——余った場合の扱い
香典は誰のもの?
香典は喪主が受け取るもので、相続財産ではありません(参列者から喪主への贈与として扱われます)。そのため、遺産分割協議の対象にはなりません。
葬儀費用に充当するのが一般的で、余剰が出た場合は喪主が取得するか、関係者間で話し合って分配します。
相続放棄しても香典は受け取れる
香典は相続財産ではないため、相続放棄をしても受け取ることができます。相続放棄は故人の「プラスの財産とマイナスの財産(借金)を一切相続しない」手続きですが、葬儀費用の支払いや香典の受取は原則として影響を受けません。
香典の余剰を相続人間で分けると?
香典が葬儀費用を大幅に上回り、複数の相続人で分ける場合は注意が必要です。特定の相続人への偏った分配や高額な分配が行われると、相続人間のトラブルや課税問題につながる可能性があります。分配する場合は、葬儀費用の負担割合に応じた合理的な分け方を、関係者全員で合意してから行ってください。
⚠ 法人(会社)が喪主として香典を受け取った場合は別扱い
社葬など、会社が喪主となって香典を会社として受け取った場合は、会社の収入として法人税の課税対象になる可能性があります。これは個人(遺族)が受け取るケースとは全く別の話です。
香典返しの税務上の扱い
❌ 相続税から控除できない
- 香典は相続財産ではないため、その返礼費用も葬式費用(控除対象)にはならない
- 国税庁No.4129でも明示的に除外されている
✅ 相続税から控除できる
- 会葬御礼(当日に参列者に渡す品)は葬式費用として控除可能
- 香典返しとの混同に注意
よく「香典返しも控除できる」という誤解がありますが、正確には香典返しは対象外、会葬御礼は対象です。この2つは混同されやすいので、葬儀社の明細書で区別して確認してください。
香典返しの金額相場(税務上は特に上限なし)
香典返しの金額自体に税務上の問題が生じることは通常ありません。社会慣習として「いただいた香典の3分の1〜半額程度」が一般的です。ただし、いただいた香典を大幅に上回る金額の「お返し」は社会通念上の問題が生じる可能性があります。
具体的な場面別の税務整理
| 受け取るもの | 誰から | 税務上の扱い |
|---|---|---|
| 通常の香典 | 参列者(個人) | 全税目で非課税(社会通念上相当な範囲) |
| 高額な香典(数百万円規模) | 参列者(個人) | 社会通念を超える部分は贈与税の可能性 |
| 弔慰金(会社・法人から) | 勤務先・法人 | 非課税枠(業務上:普通給与3年分、業務外:6か月分)以内なら非課税。超過分は相続税(みなし相続財産) |
| 弔慰金(法人から、退職後) | 過去の勤務先 | 全額が一時所得として所得税の対象(一時所得50万円控除と合算) |
| 香典(法人が喪主として受取) | 参列者 | 法人税の課税対象の可能性 |
| 香典返しの費用 | — | 相続税の葬式費用控除の対象外 |
| 会葬御礼の費用 | — | 相続税の葬式費用控除の対象 |
よくある質問
通常は不要です。香典は故人の財産ではなく喪主への贈与であり、相続財産ではないため相続税申告書への記載は原則不要です。高額な個人からの香典(数百万円規模)がある場合のみ、贈与税の観点から税理士に確認してください。
違います。「年間110万円の基礎控除」は贈与税の暦年課税制度(将来の財産移転を目的とした贈与)の話で、香典には適用されません。香典は相続税法基本通達21の3-9により「社交上必要と認められる場合は非課税」とされており、110万円とは別の話です。
故人が業務外(病気・事故など業務と無関係)で亡くなった場合、非課税枠は「普通給与×6か月分」です。例えば普通給与が月50万円なら非課税枠は300万円。500万円を受け取った場合、200万円が非課税枠超過となり、その部分を「みなし相続財産(死亡退職金相当)」として相続税申告書の第10表に記載します。死亡退職金の非課税枠(500万円×法定相続人数)と合算して計算します。税理士へのご相談を強くお勧めします。
はい、お見舞金(見舞金)も所得税基本通達9-23の「見舞金」に該当し、社会通念上相当な範囲であれば所得税・贈与税ともに非課税です。同通達は「葬祭料、香典又は災害等の見舞金」を包括的に扱っています。
できません。国税庁No.4129「相続財産から控除できる葬式費用」では香典返しは明示的に控除対象外とされています。理由は、香典は相続財産ではなく喪主への贈与であるため、そのお返しも相続税と切り離して考えるためです。一方、通夜・葬儀当日に参列者へ渡す「会葬御礼」は葬式費用として控除できます。
受け取れます。香典は故人の財産ではなく、喪主(遺族)への贈与です。相続放棄は故人の財産・負債の相続を放棄する手続きであり、香典は対象外です。ただし、相続放棄後に故人の財産(預金・不動産など)を処分すると「単純承認」となり相続放棄が無効になるため、そちらには注意が必要です。
この場合は扱いが変わります。弔慰金の非課税枠(相続税法基本通達3-20)は「雇用主等からの弔慰金」を対象としており、退職後に亡くなった方への元の勤務先からの弔慰金は「みなし相続財産」ではなく、受け取った本人の一時所得(所得税)として扱われます。他の一時所得と合算して年間50万円を超えると所得税がかかります。詳細は国税庁HP「生前に退職している被相続人の死亡により元の勤務先から支払いを受ける特別弔慰金等」をご参照ください。
葬儀費用の負担割合に応じた合理的な分配であれば通常は問題ありません。ただし、葬儀費用を大幅に超える余剰が発生し、特定の相続人が大きな金額を受け取るような場合は、贈与税の問題が生じる可能性があります。分配する場合は全員の合意を得た上で、記録を残しておくとトラブル防止になります。
まとめ:香典・弔慰金の税務ポイント
- 通常の香典は相続税・贈与税・所得税すべて非課税(根拠:相続税法基本通達21の3-9・所得税基本通達9-23)
- 香典は故人の財産ではなく喪主への贈与であり、相続財産に含まれない
- 確定申告・贈与税申告ともに不要。「110万円の基礎控除」は香典とは別の制度
- 会社からの弔慰金は非課税枠あり:業務上死亡=普通給与×3年分、業務外死亡=普通給与×6か月分(国税庁 No.4120)
- 弔慰金が非課税枠を超えた部分はみなし相続財産(死亡退職金)として相続税の対象
- 退職後の元勤務先からの弔慰金は一時所得(所得税)として扱われる
- 香典返しは相続税の葬式費用控除の対象外。会葬御礼は対象
- 高額な個人からの香典・弔慰金の非課税枠超過など判断が難しい場合は税理士へ相談
最終更新:2026年5月|TERASU by 玉泉院 編集部
参照:相続税法基本通達21の3-9・3-20、所得税基本通達9-23、国税庁No.4120・No.4129
